北杜夫の消えさりゆく物語を読んだ。この人の「母の影」を読んですごい母親と父親とに恐れ入り、ドクトルマンボウとは違うすごみは感じたが、いわゆる純文学は読んだことがなかった。今回まともに読んで、その筆力にびっくりした。幻想に力強さがあり、また、いやらしさとかはかなさとかが伝わってくる感じがあるのである。
ぱっと、脈絡もなく、自分が見境もなく女をいたぶっていた日本兵として、追いかけられる。そのことに、どう考えても思い当たることはないのに、体の中にそうしたことにしっかりとした後ろめたさがある。
といった感じが全くすっと伝わってくる。
いいものを読んだという満足感を覚えさせてくれた。