引き揚げの 困難を超え 戦後を作る

 元中日ドラゴンズのエース坂東英二氏の「赤い手」を読んだ。

 満州からの引き揚げの件から始まる壮絶な自伝小説である。びっくりしたのは、彼の小学時代の窃盗の話や高校の不正入試の話など彼にとってマイナスになることが具体的に書かれていること。そして、関東軍に裏切られ、ロシア軍や匪賊と呼ばれる盗賊集団に蹂躙され、集団自決を迫られたり、親から捨てられる直前まで来て、とにかく母親の手を離さずに何とか戻ってきた。

 壮絶なな話であった。

 安倍公房、赤塚不二夫ちばてつや兄弟、森繁久弥吉田知子五木寛之など戦後の多くの文化人が引き揚げの経験を持っている。

 引き揚げ者は、その無常観の中に人間の素晴らしさを伝え、戦後の一時代を作る上で大きな役割を果たした。