音楽の 芸術性で 生き抜いた

 吉田秀和が98歳で亡くなった。私にとって不思議な人であった。死してなおNHKのFMで「名曲の楽しみ」が録音済みというこ とで続くらしい。

 日本でクラシックなど非常にマイナーな中で、当然のように高尚なひょうひょうとした評論を続けていることに違和感を持って見ていたわけである。あの確信に満ちた語り口、自分のことを文化人と称してはばからない態度…

 死亡記事が出て、その多彩な交友や経歴にびっくりした。

 中原中也小林秀雄、大岡正平、そして知の巨人と言われた加藤周一などと親密な交友を続けた。戦後すぐに、「子供のための音楽教室」を主宰し、小沢征爾中村紘子堤剛等を輩出した。

 評論は世界で注目されるなどすごいらしい。私にはそのすごさはよくわからないが、とにかく聞いていて、何か、ほかの人とはどうも違う凄みがあるような気はしていた。

 日本で、クラシックを真剣に聞いてそれを生業にするなど不可能のようであるが、それをやりぬいて死んでいったのであるから恐れ入る。